インプラントは「一生もつ」と言われることもありますが、実際はどうなのでしょうか?
本記事では、インプラントの平均寿命や、実際に20年以上使えている人の割合など、信頼性の高いデータをもとに解説します。
さらに、寿命を左右する口腔ケアや生活習慣、歯科医選びの重要性、寿命が尽きた場合の再治療の費用や期間についても詳しく紹介。これからインプラントを検討している方にとって、後悔しないための判断材料が詰まった内容です。
インプラントの寿命はどのくらい?

インプラントは、一般的に10年~15年、条件が良ければ20年以上使えることもあります。
ここでいう「寿命」とは、あごの骨と結合している人工の土台(インプラント体)が使えなくなるまでの期間を指すことが多く、見た目の歯の部分(人工歯)が壊れることではありません。
日本口腔インプラント学会による20年以上経過した患者509人を対象にしたアンケート調査1では、次の結果が出ています。
- 78%が「特に問題なく使えている」
- 84%が「何でもよく噛める」
- 93%が「治療に満足している」
ただし、これは信頼できる歯科医院で治療を受け、定期検診や日々の歯磨きを欠かさなかった人のケースです。手入れを怠ると、1〜2年で問題が起き、撤去が必要になることもあります。実際、14%の人がインプラントを取り除いた経験があるという報告もあります。
つまり、インプラントは高い成功率と長い寿命が期待できる治療ですが、それを実現するには定期検診と日々の手入れが欠かせないということです。治療を受ける歯科医院の選び方や使うインプラントのメーカーも、寿命を左右することになります。
ブリッジや入れ歯との寿命比較

インプラントは、ブリッジや入れ歯と比べて寿命が長いと言われています。
ブリッジの寿命は一般的に6〜8年程度、入れ歯の寿命は3〜5年で作り直しが必要になることが多いです。一方、インプラントは骨としっかり結合するため、10年以上から、条件が良ければ20年以上使えるケースもあります。
インプラントの寿命については、厚生労働省が実施した「歯科保健医療情報収集等事業」2にも以下のような記載があります
10~15 年の累積生存率は上顎で約 90%程度、下顎で 94%程度である。また抜歯即時埋入や骨移植を伴った埋入では若干生存率が下がるものの 87~92%程度である。
厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」-歯科インプラント治療のための Q&A
このように、インプラントは他の治療法と比べて寿命が非常に長く、長期的に安定した治療が期待できるのが特徴です。
インプラントの寿命に影響する主な要因

インプラントは「入れて終わり」ではなく、使い方次第で寿命が大きく変わります。高額な治療だからこそ、長く使えるようにするには日常の習慣が重要です。
寿命を左右する主な4つの要因はこちらです。
- 口腔ケアの有無
- 定期検診の継続
- 喫煙・糖尿病など
- 噛み合わせや歯ぎしりなどの癖
それぞれ詳しく説明していきます。
インプラント周囲炎
インプラントは虫歯にはなりませんが、「インプラント周囲炎」という歯周病のような炎症を起こすことがあります。
インプラント周囲炎は、インプラントの周りに汚れ(プラーク)がたまることで細菌感染を引き起こすもので、進行すると骨が溶けてインプラントが抜け落ちることもあります。
毎日のブラッシングに加え、歯間ブラシやデンタルフロスでインプラントの周囲を丁寧に清掃することが重要です。とくに歯と人工歯の接合部は汚れがたまりやすくいので、しっかりと口腔ケアをおこないましょう。
定期検診の継続
インプラントは「骨と結合する」ことで固定されますが、結合後もトラブルが起きることがあります。特に初期のインプラント周囲炎は自覚症状がほとんどないため、定期的なメンテナンスが不可欠です。
年2〜3回の検診では、歯科医が噛み合わせのチェックやクリーニング、X線による骨の状態の確認を行います。問題が早期に見つかれば、治療や調整によって寿命を延ばすことが可能です。
喫煙・糖尿病など
喫煙やコントロールされていない糖尿病は、インプラントの成功率と寿命を下げる大きな要因です。喫煙は血管を収縮させて血流を悪くし、治癒力を下げるため、インプラントと骨がしっかり結合しづらくなります。
また、術後の感染リスクも上がります。糖尿病の場合も、血糖値が高い状態が続くと免疫力が低下し、細菌感染を起こしやすくなります。禁煙や糖尿病の適切な管理は、インプラントの長期安定には不可欠です。
噛み合わせや歯ぎしりなどの癖
インプラントは天然歯と違い、わずかな動きがないため、過度な力が加わるとダイレクトにダメージを受けます。夜間の歯ぎしりや食いしばりなどがあると、インプラントや周囲の骨に負担がかかり、破損や緩みの原因になります。
咬合(噛み合わせ)のバランスが悪いと、特定の部位に力が集中することもあるため、マウスピースの使用や噛み合わせの調整が推奨されます。治療後も歯科医院で定期的に噛み合わせをチェックしてもらうことで、インプラントへの負担を最小限に抑えることができます。
インプラントを長持ちさせる方法

インプラントは一度入れたら終わりではありません。毎日のケアや生活習慣によって寿命が大きく変わります。以下のポイントを意識することで、10年、20年と使い続けることができるかもしれません。
正しいブラッシング
インプラントは虫歯にはなりませんが、「インプラント周囲炎」という病気になるリスクがあります。これは天然歯の歯周病に似た状態で、進行すると骨が溶けてインプラントが抜ける原因になります。
予防には、1日2回の丁寧なブラッシングが欠かせません。特に歯と人工歯の境目は汚れがたまりやすく、歯間ブラシやフロスの併用が効果的です。
歯科医院でのメンテナンス
インプラントを長く使うには、歯科医院での定期的なチェックが不可欠です。見た目に問題がなくても、骨の減少や噛み合わせのズレが起きていることがあります。
年に2〜3回のメンテナンスを受ければ、トラブルを早期に発見でき、必要な処置をすぐに行うことができます。結果的に、再治療のリスクと費用を抑えることにもつながります。
禁煙・食生活の見直し
喫煙や乱れた食生活は、インプラントの寿命を縮める大きな要因です。タバコは血流を悪くし、治癒を妨げるだけでなく、インプラント周囲炎のリスクも高めます。
また、糖分の多い食事や偏った栄養も、口腔内環境を悪化させる原因になります。健康な歯ぐきと骨を保つためには、禁煙を意識し、野菜やたんぱく質をしっかり取るバランスの取れた食事が重要です。
歯ぎしり対策をする
歯ぎしりや食いしばりは、インプラントに過度な力を加え、寿命を縮める原因になります。
特に就寝中の歯ぎしりは無意識に起こるため、自分では気づきにくく、インプラントや周囲の骨にダメージを与えることがあります。
対策としては、ナイトガード(マウスピース)の装着が一般的です。歯科医院で自分の歯型に合わせて作ってもらうことで、噛む力の負担を和らげ、インプラントを守ることができます。また、噛み合わせの調整も有効です。違和感や肩こり、顎の疲れなどがある場合は、歯科で早めに相談してください。
インプラントの寿命がきたらどうする?
インプラントが長年使われた後に破損したり、周囲の骨が吸収されたりして寿命を迎えることがあります。そうした場合も、多くのケースで再治療が可能です。
寿命がきたインプラントは再手術できる?
再治療は可能です。ただし、骨の状態が良好であることが前提になります。インプラントは顎の骨と結合して固定されていますが、寿命が尽きた際には骨が一部失われていることもあります。
その場合は、インプラントの除去後に「骨造成(こつぞうせい)」という処置を行い、再度埋め込みできる状態に戻す必要があります。骨が十分残っていれば、比較的スムーズに再治療が進みます。
ただし、骨の再生が難しい場合や全身状態によっては、再治療が不適なケースもあります。その場合は、再手術以外の選択肢(入れ歯など)も視野に入れる必要があります。
寿命がきたインプラントの交換費用相場
インプラント再治療にかかる費用は、1本あたり30〜50万円程度が目安です。ただし、骨造成などの追加処置が必要な場合は、10〜20万円程度の費用が上乗せされることがあります。治療内容が複雑になるほど、費用は高くなります。
治療の流れは、インプラントの除去→骨の回復処置→再埋入→人工歯の装着という工程を経るため、6か月〜1年程度かかることが一般的です。
再手術は、初回治療より費用がかかる場合があります。理由は、インプラントの除去作業や骨の再生処置が追加されるためです。ただし、被せ物(上部構造)が再利用できるケースでは、費用が軽減されることもあります。
また、インプラント治療は自由診療であり、医院によって料金設定が異なるため、再治療を検討する際は必ず事前に見積もりと治療計画を確認することが重要です。
まとめ
インプラントは一度入れたら終わりではなく、「入れてからどう使うか」が寿命を大きく左右します。正しくケアすれば20年以上使い続けられることも珍しくありません。
しかしそのためには、毎日の丁寧なブラッシングだけでなく、年に数回のメンテナンスも必要です。自覚症状のないうちにトラブルが進行することもあるため、自己判断せず、プロのチェックを受ける習慣が重要です。
そして、何より大切なのが信頼できる歯科医を選ぶことです。技術力はもちろん、術前の説明が丁寧か、治療後のアフターケアがしっかりしているか、再治療が必要になった場合の対応なども含めて、長期的な視点で選ぶ必要があります。
価格だけで判断するのではなく、「この先10年、20年付き合っていけるかどうか」という目線で医院を選ぶことが、インプラントを長持ちさせる一番のポイントです。
治療前に正しい知識を持ち、良い医院と出会い、ケアを継続できれば、インプラントは非常に頼れる治療になります。年齢に関係なく、将来の安心のために、今できることから始めましょう。
【参考文献】